オーストラリアワインのトレンドー環境対応とオーガニックやビオディナミへシフト

雑記

昨年参加したオーストラリア大使館主催の「東京トレード・テイスティング2022 」。ここで開催されたセミナー「オーストラリアワインの今を解き明かす」が興味深かった。今さら、かつ、やや専門的ですが、オーストラリアのワイン業界が目指している方向性には農業に関するヒントもあるのではと、あらためてまとめました。

環境ファーストのオーストラリアワイン

講師はオーストラリア在住のマスター・オブ・ワイン、アンドレア・プリツカー氏。国土の広いオーストラリアにはさまざまな産地があり、土壌も違い、作るワインのスタイルも多様、伝統的な製法に加えて新しいスタイルにも旺盛に取り組んでいるのが特徴といいます。そういった革新もブドウ栽培からワイナリーまで環境にとって最善となる選択をしているとか。さらに、気候変動に対応し、もともと多かったフランスの品種から、現在は水使用が少なくてすむイタリア、スペイン、ポルトガルの品種が増えているというのには驚きました。また、オーガニックやバイオダイナミックも増えているそうです。

最近重視されていること

  • 最小限の介入  二酸化硫黄、いわゆる酸化防止剤の使用量を減らす
  • オーガニック栽培 ブドウの有機やサステナブル栽培
  • 消費者の嗜好に合わせた栽培、醸造  世界的な消費者の嗜好の変化に対応
オーストラリア在住のアンドレア・プリツカーMWが説明

有機栽培についてー添加物や農薬を使わない方向へ

オーストラリアではワイン業界全体で有機栽培を増やす方向にあって、多くのワイナリーが化学合成の添加物や農薬を使わず病虫害対策をする栽培に移行している段階。ただ、有機栽培のワインが多くあるものの、全てが認証を受けているわけではないそう。それは、国内の認証制度が非常に多く存在するのと、取得に何年もかかるので、あえて認証を受けないままでオーガニックの手法を取り入れるワイナリーも多いとのこと。

バイオダイナミック(ビオディナミ)が増えている

ビオディナミを採用するワインメーカーも増えているそう。ビオディナミは有機栽培を基本に、ルドルフ・シュタイナーが導入したさまざまな手法、特に月のサイクルに従って農法を決めるやり方。剪定や灌漑、畑で作業するタイミングを月の満ち欠けに従って判断をします。ブドウ栽培には、従来の方法、有機栽培、ビオディナミの3つありますが、近年はより環境に優しい有機農法、ビオディナミに移行しつつあります。

土壌の多様性の促進 

環境保全対策のなかで、畑に関することで重要なのが土壌の多様性の促進。そのためにはカバークロップやマルチを使う手法があります(通訳をされた小原さんによるとこれらの手法はオーストラリアワインの試験によく出るトピックだそうです)。

アンドレアさんは、ブドウ畑の生物多様性を促進するためのいくつかの試みをあげました。有益な昆虫、益虫が棲む環境を整える。土壌が硬くならないよう機械使用を減らす(土壌の透水性や生物活性も高まる)。化学合成の農薬を使わずに有機やサステナブルにするため(コンポスト)堆肥やマルチを根元に敷き詰める。さらに、動物を畑に放牧する昔ながらの手法もあります。冬に羊やヤギを放牧し、草刈り頻度を下げることでトラクターの使用、燃料使用も減少。羊やヤギのフンは堆肥となって土壌を改良します。

IPM(総合的病害虫・雑草管理)という方法もあって、これはブドウに害を及ぼす害虫を捕食する益虫を増やすように働きかけをすること。そのためには、さまざまな種類の植物を植えなければいけません。ブドウの畑はモノカルチャー(単一栽培)で、単一作物を育てる広い場所は自然ではないという考え方があり、ブドウ以外の植物も植えて多様性を増やして益虫がたくさん棲む、全体的な生物の多様性を増やすのも重要だということです。

気候変動と水の問題、キャノピーマネジメントも変化、品種もスペイン、イタリアが増加

オーストラリアは気候変動の影響が強く表れていて、かなり早くから対策が行われてきました。特に水の問題は非常に深刻で、非常に暑く乾燥する夏に水をどのように確保するかはワイナリーにとって死活問題。しかも水道代がとても高い。そこで多くのワイナリーはプレシジョンアグリカルチャー(精密農業)を取り入れています。栽培の際に漫然と水を撒くのではなく、どの区画がどれだけ水が不足しているのか分析した上で必要な区画にだけ水を与えます。最近はスマートフォンで管理が可能なのだとか。

葉の量を調整するキャノピーマネジメント(樹冠管理)も変化。かつては影ができないように働きかけていたものの、現在は影ができるようにマネジメントしているそうです。涼しい地域に畑を移したり、新しい畑は標高が高いところや冷涼な地域に作るのも選択肢に。

水の問題はオルタナティブバラエティー(代替品種)にも関わり、水の使用量を減らすためにも、暑く乾燥した気候に適したイタリア、スペイン、ポルトガルの品種の導入が増えているとのこと。それによって品種の多様性が増し、幅広い選択肢がもたらされ多様化する消費者の志向に合わせられるという恩恵も。

水を節約するだけではなくて、多くのワイナリーは畑やワイナリーで使った水を自社でリユースするリサイクルシステム設備を導入しているところもあるそうです。

カーボンニュートラルに向けエネルギー効率改善、パッケージも軽く!

さらに重要視されているのはカーボンニュートラル、二酸化炭素の排出量を減らすこと。ワイナリーでは燃料を減らすことが重要課題。燃料はトラクターなどの乗り物に使われるので、どう減らすかが注目点。エネルギー効率を改善するために、保温設備を改善し断熱材を使って、冷却に使うエネルギーや冷却を必要とするシーンを減らすことにもトライしているとか。

パッケージも軽いボトルにすれば輸送にかかる燃料が少なくなので、軽いボトルへのシフト中。そしてオーストラリアは日照量の多いので、ソーラーパネルで電気をまかない、CO2の削減につなげています。リユースとリサイクルもワインの瓶だけでなく、輸送のダンボール、事務作業に使う紙、有機固形物の廃棄物、建築資材など常にリサイクルを意識しながら使っていくことが重視されているとのことでした。

以上、まとめでした。

東京トレード・テイスティング2022

オーストラリアのワインは、広い国土を背景に大企業が手がけるものから家族経営のマイクロワイナリーまで幅が広く、カルト的なものからテーブルワインまで多種多様なワインを生み出しています。時代の流れにも敏感で、他の国からはマーケティング上手といわれるほど。そんな国がオーガニックを目指していくのは興味深いと思いました。

amazonで売られているオーストラリアワインの例
yuma
yuma

土地の広さ、品種から製法までバラエティ豊かなオーストラリアのワイン。「今」に対応する姿勢がすごい

 

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